Boudoir de BdT

#009 Présenté par va-tout Custom-made Pinkie Ring

Boudoir de BdT


Présenté par va-toutのデザイナーと

出会った頃 彼女はまだ学生だった


以前 私が働いていたショップに

お客様として来店していた彼女を

初めて接客した時のこと


ジャケットの試着をするために

はめていた大きなブレスレットを外した

それについて

かっこいいですね と声をかけると

『これをしてると 強くなれるんで』

と真剣な表情で答えてくれた


若かった彼女の発言は

微笑ましくもあり

今後 彼女と深く関わることはないだろうと

心に誓った瞬間でもあった


しかしその後

彼女は頻繁に店に訪れては

自身の作品について説明をしていった

初めは お付き合いのつもりで聞いていたはずが

彼女の立体のセンスに興味が湧き

なんでもいいから私に指輪を作って欲しい

とお願いしたのが 最初のオーダーだった


オーダーというのは とても難しい

ど素人が 欲しいものをゼロから想像し

それを形にしてもらおうだなんて

至難の技なのだ


二度のオーダーを経て

彼女にも ようやく私らしさを理解してもらえた頃

常に身に付けていた

ミッキーマウスの腕時計を眺めながら

ひらめいた


三度目のオーダーは

探していた大振りのピンキーリングで

ミッキーマウスをモチーフにとお願いした


今でもそうだが

彼女に お題をひとつ投げると

ストーリー仕立てに具体化された案が

戻ってくる

このやり取りはとても面白い


この年はちょうど

ウォルトディズニー生誕100周年

ということから

ディズニー最初期の

Plane Crazyのミッキーマウスをモチーフに

腕は オニキスでフィルムを表現するという

デザインに決まった


そして出来上がってきた

全長1.8cmの

ミッ◯ーマウスのピンキーリング


この頃は ラッピングに至るまで

それぞれのイメージに合わせて

作り込まれていた


今回は

ディズニーランドのお土産にある

クッキーの缶を渡された


蓋を開けると

カラフルな偽キャンディーでいっぱいだった

上の方のキャンディーを取り出し

覗き込んだ中に

小さなミッ◯ーマウスの指輪を発見した


この指輪の内側

はめると見えなくなってしまう部分には

ミッ◯ーマウスのお尻が

立体で再現されていた


頼んでもいないのに

昔から こういう遊び心も全力

こだわりも全力だった


そしてこの三度目のオーダーが

最後のオーダーとなった


いつか 私自身の店が持てたら

彼女の商品をおけたらいいね と

よく話していた


それから何年経ったろう


彼女とは深く関わるまいと決意したあの日には

想像もしなかった 未来

なにが起こるかわからないから

人生 面白くもある


この指輪は

学生だった彼女にしか作れない

技術もまだ未熟な

未完成とも言えるピンキーリング

でも

私にとっては 200%の完成度


きっとこの先

これを超えるものは出てこない


物にも 人にも

歴史がある

自分の記憶に収まりきらなかった思い出を

代わりに記憶してくれているような


物とも 長く付き合っていくと

自然とそんな存在になってくれるのかもしれない


h.

#008 Rimowa Suitcase

Boudoir de BdT


ひょんなことから 高校の卒業旅行に

海外へ行くことになり

急遽スーツケースが必要になった


高い位置にスーツケースがずらりと並んだ売り場で

どれがいいか と父に聞かれ

カラフルなスーツケースたちを見上げた


迷いなく

右端に追いやられたシルバーのスーツケースを

指差した


父は笑いながら

あれは 三億円強奪事件で使われた

ジュラルミンケースだと話していた


それがリモワとの出会いだった


そしてその後

バイヤーとなった私には

欠かせない相棒となった


当時は デザイン重視

大きすぎず 小さすぎず スマートに

そんな感じでこの二輪の薄型を選んだのだろう


でも

ヨーロッパの石畳に二輪はつらい

その上 職業柄

服やら靴やらバッグやら

出張時の荷物は少なくない

なのになぜ 二輪の薄型


そう愚痴りたくなることも


当時のパンフレットの表紙には

面いっぱいにステッカーで埋まったスーツケース

圧倒的な存在感だった


最初に見たもの

見たことがないものに 憧れを抱く


出張ごとに 徐々にステッカーも増え

それと同時に 傷やへこみも増えた

さらには車輪が壊れたり

メンテナンスした箇所も多々


ステッカーの剥がれや へこみを眺めていると

より愛着が湧いてくる


そうしていつからか

パンフレットのリモワは

憧れではなくなっていた


年月とともに らしさ が出来上がっていく


この薄型で二輪という使いにくさも

私の らしさ なのかもしれない


h.

#007 Converse All Star

Boudoir de BdT


言うまでもなく 永遠の定番

例にもれず 私にとっても


ハイテクスニーカーに

ふらふらと浮気してみることもあるけれど

必ず ここに戻る


ハイカット派

2〜3サイズ大きめ

高校時代は

ミッキーマウスみたいだね と言われていた

いま思えば

きっと褒められていない


それでも昔から

足元は ずっしりしっかり

ボリュームのあるバランスが好きだった


大人になってからは

コンバースも断然 ビンテージが好み

でも 酷使しすぎる私は

ビンテージを すぐに履きつぶしてしまう

デッドストックもまた然り


そこで最近では

ヘビーユースは 新人に

ビンテージは 労りながら

なんて

優しさが芽生えてきた


真新しいコンバースを持っていない私は

まず 新人を選抜しなければならない

ショップに並ぶ候補者たちと

にらっめこ・・


好きなものと出会うのは簡単じゃない

だからこそ 大切にしたい


これからは

少しずつ厳選し

新人にもお世話になろう


おばあちゃんになっても

永遠の定番アイテムとして 履き続けられるように


h.

#006 Ann Demeulemeester Asymmetry Knit

Boudoir de BdT


20代始め 初任給でまず買いにいったものは

ANN DEMEULEMEESTERのニットだった


ANNの服を買えた日は

BGMが流れそうなほど

はじめてのおつかい 気分だった


思えば その頃から

ANNといえば

アシンメトリーに ウエストの紐

この紐により シルエットを意図的に変形させることができる


最初 その紐の扱いに苦労した

絞りすぎたり

左右反対に結んで うまくドレープが寄らなかったり

紐に振り回されながら

自分なりの着方を覚えていった


オフの日にこのニットを着られることが楽しみで

それはそれは丁寧に扱い

間違いなく 10年選手代表のはずだった


数年経ったある日

ふと 手洗いを試みた


特に何の問題もない様子で洗われたニットを

鼻歌交じりに乾かす

乾いた頃 その様子を見に行った私は

目を疑った


ただでさえ長かった袖は さらに長くなり

トップスだった着丈も チュニック化

ダランダランになった

お化けのようなニットがそこにいた


そう なにを思ったか

ハンガーにかけて干したのだ

若いとはいえ

二十歳を過ぎた女性の洗濯・・


ニットは平干ししましょう


当時の私の引き出しには存在していなかったのか


この瞬間 10年選手から脱落

いや

このお化け

デザイン違いだと思い込んで 着れやしないか


そうしてまず不要になったのが ウエストの紐

伸びきったニットに ドレープは出ない

デザインて なんて計算されているんだろう と感動し

失敗から学んだことは大きかった


とはいえ

どう試行錯誤して着ようとも

伸びきっている

ここで選手生命が絶たれるとは

申し訳ない気持ちでいっぱいになった


当然

捨てられるはずもない そのニットは

毎年その時期が来ると

今年こそ 着られるのではないかと

鏡の前で試着

年に一度の恒例儀式のようになった


断捨離ブームも定着した今 確かに

不必要なものは手放すべき

でも

捨てられないモノがあっていいと思う


それ以来

ANNの新人選手は 増えていくばかりだけど

一番 愛着のある一枚かもしれない


h.

#005 Haider Ackermann Shirt

Boudoir de BdT


メンズのような サイズ感

なのに袖を通すと

落ちる布 そのドレープにより

より女性らしく 凛とした表情を与えてくれる


大抵 買付けの際

自分が一目惚れしたものほど 売れ残ったりする

このシャツも例外ではなかった


嫁に行きそびれたシャツを引き取り

着て 洗う を繰り返す


私が学生の頃 山本耀司さんが

真新しいシルクの服を洗濯機で何度か洗うと

着古したような質感になる

そうしてシルクを着るのが好きだ と仰っていた


それ わかる


さすがに洗濯機でガンガン洗うことはできなかったけど

何度も手洗いを繰り返すと

ぬったりとした 

最初とは明らかに違う 素材感

テカテカしていたカーキ色も どんどん白っちゃけ

実際 いいのか悪いのか


でも 

布好きにとっては たまらない

数年経った今

より 自分のものになった感じ


服にも味が出てくる

味もヨレも 紙一重かもしれない

でも 自分が好きならそれでいい


大人になり

あんまりボロは身につけられなくなったけど

いつまでも味のある服を 身に纏っていたいし

その服に着られてしまうことのない

人間でありたい


h.