Boudoir de BdT

#008 Rimowa Suitcase

Boudoir de BdT


ひょんなことから 高校の卒業旅行に

海外へ行くことになり

急遽スーツケースが必要になった


高い位置にスーツケースがずらりと並んだ売り場で

どれがいいか と父に聞かれ

カラフルなスーツケースたちを見上げた


迷いなく

右端に追いやられたシルバーのスーツケースを

指差した


父は笑いながら

あれは 三億円強奪事件で使われた

ジュラルミンケースだと話していた


それがリモワとの出会いだった


そしてその後

バイヤーとなった私には

欠かせない相棒となった


当時は デザイン重視

大きすぎず 小さすぎず スマートに

そんな感じでこの二輪の薄型を選んだのだろう


でも

ヨーロッパの石畳に二輪はつらい

その上 職業柄

服やら靴やらバッグやら

出張時の荷物は少なくない

なのになぜ 二輪の薄型


そう愚痴りたくなることも


当時のパンフレットの表紙には

面いっぱいにステッカーで埋まったスーツケース

圧倒的な存在感だった


最初に見たもの

見たことがないものに 憧れを抱く


出張ごとに 徐々にステッカーも増え

それと同時に 傷やへこみも増えた

さらには車輪が壊れたり

メンテナンスした箇所も多々


ステッカーの剥がれや へこみを眺めていると

より愛着が湧いてくる


そうしていつからか

パンフレットのリモワは

憧れではなくなっていた


年月とともに らしさ が出来上がっていく


この薄型で二輪という使いにくさも

私の らしさ なのかもしれない


h.

#007 Converse All Star

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言うまでもなく 永遠の定番

例にもれず 私にとっても


ハイテクスニーカーに

ふらふらと浮気してみることもあるけれど

必ず ここに戻る


ハイカット派

2〜3サイズ大きめ

高校時代は

ミッキーマウスみたいだね と言われていた

いま思えば

きっと褒められていない


それでも昔から

足元は ずっしりしっかり

ボリュームのあるバランスが好きだった


大人になってからは

コンバースも断然 ビンテージが好み

でも 酷使しすぎる私は

ビンテージを すぐに履きつぶしてしまう

デッドストックもまた然り


そこで最近では

ヘビーユースは 新人に

ビンテージは 労りながら

なんて

優しさが芽生えてきた


真新しいコンバースを持っていない私は

まず 新人を選抜しなければならない

ショップに並ぶ候補者たちと

にらっめこ・・


好きなものと出会うのは簡単じゃない

だからこそ 大切にしたい


これからは

少しずつ厳選し

新人にもお世話になろう


おばあちゃんになっても

永遠の定番アイテムとして 履き続けられるように


h.

#006 Ann Demeulemeester Asymmetry Knit

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20代始め 初任給でまず買いにいったものは

ANN DEMEULEMEESTERのニットだった


ANNの服を買えた日は

BGMが流れそうなほど

はじめてのおつかい 気分だった


思えば その頃から

ANNといえば

アシンメトリーに ウエストの紐

この紐により シルエットを意図的に変形させることができる


最初 その紐の扱いに苦労した

絞りすぎたり

左右反対に結んで うまくドレープが寄らなかったり

紐に振り回されながら

自分なりの着方を覚えていった


オフの日にこのニットを着られることが楽しみで

それはそれは丁寧に扱い

間違いなく 10年選手代表のはずだった


数年経ったある日

ふと 手洗いを試みた


特に何の問題もない様子で洗われたニットを

鼻歌交じりに乾かす

乾いた頃 その様子を見に行った私は

目を疑った


ただでさえ長かった袖は さらに長くなり

トップスだった着丈も チュニック化

ダランダランになった

お化けのようなニットがそこにいた


そう なにを思ったか

ハンガーにかけて干したのだ

若いとはいえ

二十歳を過ぎた女性の洗濯・・


ニットは平干ししましょう


当時の私の引き出しには存在していなかったのか


この瞬間 10年選手から脱落

いや

このお化け

デザイン違いだと思い込んで 着れやしないか


そうしてまず不要になったのが ウエストの紐

伸びきったニットに ドレープは出ない

デザインて なんて計算されているんだろう と感動し

失敗から学んだことは大きかった


とはいえ

どう試行錯誤して着ようとも

伸びきっている

ここで選手生命が絶たれるとは

申し訳ない気持ちでいっぱいになった


当然

捨てられるはずもない そのニットは

毎年その時期が来ると

今年こそ 着られるのではないかと

鏡の前で試着

年に一度の恒例儀式のようになった


断捨離ブームも定着した今 確かに

不必要なものは手放すべき

でも

捨てられないモノがあっていいと思う


それ以来

ANNの新人選手は 増えていくばかりだけど

一番 愛着のある一枚かもしれない


h.

#005 Haider Ackermann Shirt

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メンズのような サイズ感

なのに袖を通すと

落ちる布 そのドレープにより

より女性らしく 凛とした表情を与えてくれる


大抵 買付けの際

自分が一目惚れしたものほど 売れ残ったりする

このシャツも例外ではなかった


嫁に行きそびれたシャツを引き取り

着て 洗う を繰り返す


私が学生の頃 山本耀司さんが

真新しいシルクの服を洗濯機で何度か洗うと

着古したような質感になる

そうしてシルクを着るのが好きだ と仰っていた


それ わかる


さすがに洗濯機でガンガン洗うことはできなかったけど

何度も手洗いを繰り返すと

ぬったりとした 

最初とは明らかに違う 素材感

テカテカしていたカーキ色も どんどん白っちゃけ

実際 いいのか悪いのか


でも 

布好きにとっては たまらない

数年経った今

より 自分のものになった感じ


服にも味が出てくる

味もヨレも 紙一重かもしれない

でも 自分が好きならそれでいい


大人になり

あんまりボロは身につけられなくなったけど

いつまでも味のある服を 身に纏っていたいし

その服に着られてしまうことのない

人間でありたい


h.

#004 Hermès Kelly

Boudoir de BdT


女性だったら一度は憧れるだろう

バーキンや ケリー


ステッカーをいっぱい貼って ガンガン物を入れ

乱雑に扱う感じ

私もいずれ バーキンを蹴飛ばす勢いで使ってやる

と 心に誓っていた


しかし バーキンを目の前に 若かった私は

バーキンの華やかさ に尻込みした


名前の由来からも

ケリーの方が 恐れ多い気がしていたのに

合わせてみると

なぜか しっくりきた


なにかの節目に というわけではなく

いつものように 都合の良い出会い にかこつけ

自分の元へ連れてきた


気品漂うケリーバッグ

自分とバッグとの釣り合い が気になり

いかに 普通に使ってます感 を漂わせるか

恐る恐るも がしがし扱ってみる


ある時

とてもよい塩梅に くたびれたケリーを待つ女性と出会った

前のめり気味に くたびれた経緯を伺ってみると

エルメスの高級レザーは ワンちゃんも大好物

ワンちゃんの手の届くところに置いたもんには

ガブガブと 美味しそうにかじってしまうそう


私がどんだけ乱雑に扱っても

ワンコのかじりに 勝てるはずもなかった 


そんな時 パリのマーケットで出会った

ぼろっぼろのケリーバッグ

程よいサイズに 綺麗なダークグリーンのレザー


実際どうしたら エルメスがこうなるのか

何匹のワンコのおやつになれば こうなるのか

先日の女性のものとは 比にならないほどボロボロだった

それでも 私には宝物に見えた


持ち手も外れそうなほどの ケリーバッグを

迷いに迷った挙句

結局 連れて帰ることができなかった

なのに

その おんぼろケリーを 今でも思い出す


年月が経つと

おんぼろバッグすら

綺麗な思い出になるのかもしれない


良い人の元で 元気に活躍していますように


h.